知らない方がしあわせだったりすることは
世の中にあふれていて
テレビの裏側とタレントの素
好きな人の性癖
嫌なやつの優しい一面
初恋の人の成れの果て
他のスーパーのセール品
ダメな上司の手取り
会社の経営者一族の暮らしぶり
LINEグループの知らないやつ
オリジナル盤レコードの音
飲食店の経営 . . .
などなど
あげつらねれば
枚挙にいとまがないわけで
最近はすっかり
お店に行って
用もないのに
あれやこれやながめて歩くことも
ほとんどなくなって
必要なものだけを
少しでも安くネットで買って
届けてもらう怠惰な日常
仕事の帰り道
CD屋やら本屋なんかに
毎日立ち寄っては
買う予定のなかった
不幸の出会いによって
幸せを感じていたのですが
新刊の発売も
新譜の発売も
知らずに生きていける昨今
それでも
ネットにあふれかえる情報や
頼んだ覚えのないセールスメールが
要らんことを囁いてくるので
見て見ぬふりをしていても
気軽すぎるネットショッピングがあざとなり
思慮の起動を待たず
衝動でポチっとな
なわけで
置き配なんて無用心は
まかり通さなくても
さっさとポストインで
ポストマンは行ってしまい
発売日には
知る由もへったくれもなかったはずの本の
ページを手繰る始末
レコードの音は
プレスされた時期が
早いにこしたことはなく
最初期プレスのオリジナル盤を
探す旅は
知らなければ幸せに暮らせた日々を
奪い去ると共に
今まで聴いてきた
薄めすぎたカルピスのような音源への
後悔と
残された人生の
残り時間を鑑みて
どれだけ至福の時間が得られるのかという
ジレンマへと誘われるわけで
いくらか手に入れたオリジナル盤の
濃厚なその音の生々しさに
贅沢極まりない時間を
惜しげもなく費やす中
休む間もなく
次の獲物を物色して
今まで聴いてきた
薄味の記憶を
特濃スープに塗り替えていく
そんなおりに
道すがら
ふと目にした本に
不幸の手紙の如く
お前のレコードは
最初期盤ではないと
濃いと思って満足したはずなのに
そっと手を差しのべて
人気のない暗がりに
夜目も効かないにも関わらず
否応なくいざなうその姿は
角や牙に
矢印の尻尾が生えた
コウモリのような翼の生えた生き物
「 初盤道 」
アットホームな食卓の
ちゃぶ台をひっくり返すような
目に余る言動
一度は納得出来たその音を
真っ向から否定するような
最初期マト盤はラウドカットだと
生きるのもやっとな
日々の暮らしにも関わらず
つつましく暮らす庶民から
まだ絞り取ろうというのか
胸を撫で下ろして
穏やかに生きていくことを
許すまいとする
不埒な書物
UK オリジナル stereo
モノラルからステレオに需要と共に
移り変わり
レコードの音も
オリジナル盤といえど
魅力が半減するなか
あまりにひどかった
CDの音と
まったく違う骨太な音でなる
オリジナルパンクの
オリジナル盤レコード
これでもう
リマスターCD地獄から
脱出できたと
思いきや
まさかのラウドカット盤の存在
オリジナル盤には
オリジナル盤の
無限ループが
黒澤の白痴を思い出したりしつつ
知らないでいれば幸せだったと
知ってしまったことへの苦悩に
顔を歪めているはずなのに
鏡の向こうで
ほくそ笑んでいるわけで
禁断の書は
現代にも存在して
われわれの心を
ゆっくりと
しかし確実に
蝕んでいくのであった
オリジナル盤のレコードを聴くお店！
ロックンロール レコード
~ お茶の間に間に ~
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